2012年8月のとある日、筆者は、河原田の諏訪町にある、経営者が入れ変わったこの居酒屋を訪ねてみた。午後12時20分丁度にお店に到着した。店内には、4人掛けのテーブル席が2卓あり、小上がりに4人掛けのテーブル席が2卓と二人掛けのテーブル席が1卓あり、5席ほどのカウンター席があった。先客は小上がりに地元の中年客のカップルがいて、テーブル席には中年の小太りおばさんがいただけ。テーブルの上のメニューには、麺類(ラーメン各種)、丼物、一品料理の三カテゴリーに分けられたお料理群が書かれていた。辛い料理には、その辛さの度合いに応じ、赤唐辛子マークが幾つか付けられていた。店主は、元平川地一丁目の歌手「林直次郎」さんとやらで、茶髪でちょっといかした感じの若いお兄さんだった。顔立ちはホストクラブに行くとよくいるような、パット見、イケメン風のあんちゃん様だ。どういう事情で歌手から居酒屋のマスターに転身したのか知らぬが、ここはホストクラブではない、居酒屋である!顔ではなく、あくまでも味で勝負すべし!
筆者はs-lifeの広告に掲載されていた、三種の果物の甘味が加わったお勧めカレーが食べたかったので、これを注文した。すると店主は、「すいませえ〜ん、昨日で売り切れてしまって今日はできないんですよお〜」と言った。筆者は「何だ、いつ来ても食べられるわけじゃないのか、残念だなあ〜」と心の中で叫びつつ、「ではラーメンのお勧めは?」と問うと、「正油ラーメンとか美味いっすよ」とお兄さんが言ったので、それを注文してみた。やがて、高校生風の坊主頭の男の子が女の食べ残した皿を片付けにやってきた。どうやら男性二人で切り盛りする店のようであった。店内のテレビからはNHKの素人のど自慢の歌声が流れていた。やがて、女性と男性二人のボーカリストが歌うピンキーとキラーズの「恋の季節」が始まった。筆者に遭遇した、佐渡のスナックのママさん達が筆者の印象を聞かれた時に異口同音に発する、「わあ〜すれられないのお〜♩、あ〜の人が好きよお〜♫、あ〜おいシャツ着てさあ〜♬、う〜みを見てえ〜たわあ〜♩」のフレーズが聞こえてきた。待つ事しばし15分、ようやくラーメンが出来上がった。見るとスープには豚の背脂が浮かんでいる。具材は、煮卵、きくらげ、チャーシュー2枚、しなちくであった。まずスープを一口啜ってみた。ホストクラブのホスト風料理人が作ったスープにしては意外にも美味いじゃないか。だが、麺は中太のちじれ麺でスープとの絡み具合はいまいちである。チャーシューは柔らかさに欠け、「麺好や ゆうじ」に修業に行かせねばなるまい。煮卵は黄身まで味が浸み込んでおらず、しかも冷たいときている。15分もかけてこの程度では、所詮、イケメンホストが作った素人ラーメンの域を出ていない。多分、カレーも同様で期待するほどの物ではないかもしれぬ。メニューが他の居酒屋のように、ありとあらゆる品揃えでない所を見ても、料理のレパートリーはそれほど広くないのであろう。筆者はお代の600円を支払い、そそくさとお店を出た。暖簾には「一球入魂、旨いラーメン」と書かれていた。一球15分入魂でのこのラーメン、店主の顔と笑顔の接客で半分、味で半分の、「ししとう」さんのラーメンだった。